自立した若者とバレンタイン
ここの大学では、soirée(ソワレ、パーティーの意)はたいてい木曜日の夜に行われます。うちのクラス金曜朝8時から授業あるから行けない...
なぜって?それは金曜日の放課後にみんな実家に帰るからです。
そして、日曜夜もしくは月曜朝にトランクをゴロゴロ引きずって大学へ戻ってくるフランス人学生をよく見かけます。
日本では実家から遠い大学に通っている私は、実家暮らしや頻繁に帰れるのを羨ましく思っていました。
私の中国人の友達は、高校から全寮制が当たり前らしく、日本の高校生の恋愛映画を観た際、「どうして放課後いちいち家に帰るの?」と思っていたそうです。ほとんどの日本人は家から学校に通ってると答えると、なかなか驚いていました。
自立するってどういうこと?
自立の定義を、簡単に実家の外に自分の生活の基盤を置くこととすると、文化や習慣の違いがよく見えてきます。
先ほど中国の例を挙げましたが、ちなみに、結婚後は2世帯・3世帯が伝統的なんだそう。ですが全体的に核家族化傾向です。
ヨーロッパにおける、実家暮らしの若者(25歳から34歳)の割合を表した地図があります。一般的に、北欧の若者は親元を離れて暮らしていて、南欧ではそうでないことがわかります。
この地図は、@AmazingmapsというTwitterアカウントが一昨年発表したものです。こちら、他にもたくさんの地図を紹介しています。ちなみに私がお気に入りなのはこれ。「デンマーク人はどのようにヨーロッパを見ているか」
How Denmark views Europe... pic.twitter.com/sQaM14lbKJ
— Amazing Maps (@Amazing_Maps) 2016年11月11日
それはともかく、デンマークはヨーロッパ1の自立度を誇っています。その訳は、学生に優しい制度が整っていること(学生時代6年間、月650ユーロ支給)若者の失業率が低いことなどが挙げられます。
このように、国の政策や経済状況によって、若者の実家暮らしの割合は左右されます。
金融危機に苛まれたギリシャでは特に高い割合なのが見て取れます。
しかし、実家の方が快適だから留まるパターンもあります。イタリアの例を見てみましょう。
親の本音は、出て行ってほしい?
イタリアでは、伝統的に息子をちゃんと育てることが重要視されるらしく、そのような背景で割合は高いです。
そんな中、母親たちの現状を歌とダンスでポップに伝えるミュージックビデオが出されました。これは、ある銀行が経済的にも自立した若者に対する融資サービスの顧客拡大を画策して打ち出したものだったのですが、イタリアの母親たちから広い共感を呼んでいるそうです。
題名の"Smammas"とは、イタリア語でお母さん(複数形)という意味の"mammas"と、立ち去れという意味で"mammare"の言葉遊びです。ビデオでは、「子供」が散らかした部屋をうんざりしながら片付ける姿が見られます。(下のサムネイル画像は、同じ境遇の母親たちが隊を組んで歌い踊るシーンから。さすがイタリア。)
フランスの若者
それでは、フランスはどうでしょうか。地図を見ると、隣国ドイツ・イギリスほどは高くないが、それでも低くはないといったところでしょう。
フランスには、学生住宅保障(la Caisse d'Allocations Familiales - CAF)という社会保障制度の一環のallocation(アロカシヨン、手当金)が支給されます。ちなみにこの制度はヨーロッパ唯一で、寛大にも外国人学生に対しても適応されます。
今改めて思ったんだが、私マイページみたいなの開設したのちの記憶がないぞ...ちゃんと適応されているのだろうか。こないだ第2セメスターの寮費ふつうに払ったし...なんかお腹のあたりぞわぞわする。
しかし、それでは若者の「自立」促進には繋がらないらしく。この辺りの割合にとどまっています。
Tanguy現象
ところで、フランスでは、25歳から34歳になっても親の家で住み続ける若者を、「Tanguy(タンギー)世代」、その世代の登場を「Tanguy現象」と言います。日本でいう「パラサイトシングル」の専門用語と広義は共通です。
Tanguyはフランス人男性の名前です。誰?
2001年に放映されたコメディー映画"Tanguy"の主人公、タンギー君です。
彼は28歳。研究のため学生をやっており、実家に暮らしています。
この映画の中で、このような「新しい世代」の現状が描き出され、有名になりました。
映画のワンシーンを観ましたが、なかなかパンチが効いていました。例えば、退職して余生を楽しもうとする両親が夕食後ちょっとリッチなワインを嗜もうと思ったら、勝手に息子に考えなしでパーティーに持って行かれてた、とか、彼が論文執筆の進行が芳しくなくてまたこの状況がズルズル続くけど実家にいていいよね?ボクが残るのお母さんも嬉しいよね?って話したりとか。
一般的に、こういう場合、ネガティブなニュアンスがあります。ただ、社会的な訳もあり、一概に若者は実家を離れて暮らせばいいんだと言うこともできず。もどかしい面があります。
これについてどう思うか、私の身近なフランス人でこのまま博士号を目指すとTanguy世代に手が届きそうな彼に聞いてみたところ、あまり否定的には捉えていないみたいです。勉強か仕事かはしていて、別に何もせず親の臑を嚙る訳でもないし。ただし一般論として、そのくらいの年齢でまだ実家暮らしだと、恋人を連れて行くのは気まずいしそういうカップルは長く続かないんじゃないか、と答えてくれました(さすがフランス人)。
そういえば今週の火曜日はバレンタイン。
彼はこの間の1周年記念ディナーで金欠のため、多分バーガーキング です。フランスのバーガーキングにだけ、期間限定カップル用ストロー付きカップがあるとネットニュースで見かけたので(さすがフランス)、野次馬根性で見てこようかな。